2. イベント実施概要
(1) 田坂氏ご講演「海外スタートアップの日本進出への障壁」
渋谷区では、エコシステムの構築、実証実装、国際化の3つをテーマにスタートアップの支援に取組んでいます。エコシステムでは、スタートアップが抱えるあらゆる課題に対応するため、課題に応じた部会を作り、大企業を巻き込みながらスタートアップの取組みを支援しています。実証実装については、主にB to Cのビジネスを行うスタートアップを対象に、モニター登録をした渋谷区民へ実証実装の参加を募ることができる仕組みを構築しています。国際化について、多様な海外スタートアップを誘致するため、具体的にはスタートアップ向けの様々な種類のビザの発行や、国際イベントの招致、日本のスタートアップイベントや企業を紹介するメディアの運営等に取組んでいます。更に、SHIBUYA STARTUP SUPPORTを立ち上げ、大企業と連携しながらスタートアップ誘致後の「成長」フェーズでのサポートを行っています。
その中で浮き彫りになった課題として、投資家や自治体、大企業の方々の言語の問題、多様な人材を招聘するためのビザの発行、生活面での十分なサポートが挙げられます。
(2) パネルディスカッション「日本企業が海外スタートアップと連携していくには」
西山氏がモデレーターを務め、日本企業と海外スタートアップの連携に向けたプロジェクトに携わる立場からファリザ氏、日本進出に成功した海外スタートアップや投資家の立場からドラブキン氏、海外スタートアップの日本進出を支援する立場から田坂氏が、日本企業と海外スタートアップの連携についてパネルディカッションを行いました。
テーマ①:日本企業と海外スタートアップの連携に関する現状と課題
海外スタートアップとの連携における日本企業の現状として、以前から連携を強化している日本企業と、連携したいが何から着手するべきかわからない日本企業の2パターンに大分されます。前者においては、スタートアップへの投資自体は成功しているものの自社全体を巻き込むことができず、結果として海外スタートアップ連携のシナジーを醸成できないまま失敗に終わるケースが多く見られ、後者においては、海外スタートアップについての情報リサーチは十分できているが具体的な行動に踏み出せていないケースが多く見られます。
のように海外スタートアップとの連携が成功していない原因としては、連携する理由やそのメリットについて経営層を中心とした企業全体が十分理解できていないことにあります。大企業特有の縦割り制度により、オープンイノベーション推進部門と経営管理部門の方向性に乖離が生じ、経営管理層がスタートアップとの連携のメリットへの理解や意思決定に時間を要しています。
日本の大企業の組織構造をすぐに変えることは難しいですが、例えばヨーロッパの大企業で見られるように、イノベーション推進チームを完全に切り離して別会社にすることで自由にプロジェクトを動かし、プロジェクトが成功すれば本社で行うという方法を活用することによって、日本の大企業がうまく海外スタートアップとの連携が図れると思います。
テーマ②:海外スタートアップとの連携に向けて、日本企業が理解すべきことや必要なマインドセット
海外スタートアップとの連携やシナジーの醸成に向けて、日本企業はイノベーション推進チームだけに留まらず全社的に取り組んでいく姿勢が求められています。特に経営層が海外スタートアップとの連携に慎重な姿勢を見せる傾向にありますが、イノベーション推進側が経営層に対してスタートアップと連携する理由について論理的に説明を重ねることで全社的な合意を得ることが大事になります。海外大企業のスタートアップ連携における先進事例を踏襲することや、連携やシナジーの醸成に成功している方々に直接連絡を取ることを通して、是非連携を進めてほしいと思います。
また、シリコンバレーにおいて日本人の目的意識の欠如が課題として挙げられています。具体的には、日本人が何を目的としてシリコンバレーに足を運んでいるのかわからないという意見や、情報を入手するだけで何も情報を与えてくれないといった意見が挙げられています。その課題を解決するために、海外のスタートアップと連携する理由について考えを深めるワークショップを開催すること等を通して、日本企業の海外スタートアップ連携に関する目的意識を育成する必要があります。